自己資金経営から3億円の資金調達をした理由 – 2013年 7月10日

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僕が経営するランサーズ株式会社は、メディア等で発表があった通り、2013年5月にグロービスとGMOを引受先とする、3億円の第三者割当増資を行いました。資金調達はゴールではなく、あくまでも成長のための手段なわけですが、それでも私個人宛に多くのお祝いのメッセージを頂きまして、とても嬉しく思います。

5年間、自己資金経営だったためか、「ランサーズは調達しない」と思っていた方が多いようで、方針転換の理由は?と非常に多くの質問も受けました。また、私がそうであったように、自己資金経営を貫くのか、資金調達して経営するのか、そもそも、それらの違いは何なのか、という情報はあまりインターネット上に無いように思います。ある程度の自己資金経営期間を経て、資金調達をするというケース自体も多くは無く、起業を検討している方や起業家の方などに、少しでも参考になるのであればと思い、その背景やプロセスをご紹介させて下さい。

起業前夜~資本金900万円での創業(2007年-2008年)

・資本金の出資

2007年末に起業を決意して、資金計画を考える中、当時は資金調達などの選択肢すらあんまり考えておらず、創業時の初期資本は創業者で捻出するもんだと考えていた(というより他の手段を知らなかった)ので、2008年の起業時の資本金900万円は、すべて自分で工面することになりました。なぜもっと少なくしなかったのか?と聞かれることもあるのですが、計算すると900万円くらい初期に必要だったため、純粋に900万円としました。(ちなみに本当に残高数十万円という時期を迎えることになります(笑))

・起業時の外部資本検討

当時の会社名は「株式会社リート」という名前でした。ランサーズを立ち上げてクラウドソーシング事業を行う以外にも、複数の事業を立ち上げる予定で、そもそもクラウドソーシングが立ち上がるのか、他のどんな事業を行うのか、どの事業に集中すべきなのか、は定まっておらず、「とにかく行動しながら検証しよう」と思っていたので、やはりこの時点では、自己資金での立上げが適切だったし、この状態で投資を受けるのは困難だったと思っています。仮に今のプランがあっても市況的に厳しい時期だったと思います。

自己資金でのサービス運営(2009年-2012年)

・徹底したローコスト体制の構築

2008年4月に創業し、ランサーズを2008年12月にリリースして、2009年からは本格的なサービス運営を開始しました。

自己資金でのサービス運営のため、キャッシュに余裕はないという状況であったこと、自分自身が学生時代に自分で事業をしており、かつエンジニアのため、外注せずに完全内製(自分1人)でプログラミングやデザイン、経理などができたこともあって、サービス運営のコストは徹底的に最小化されていました。

オペレーションのほとんどを自動化して、各種システム関連はすべてオープンソースを利用し、インフラは6800円/月の専用サーバー1台で運営できる位にチューニングをし、徹底したローコスト運営体制を構築しました。そのため、立上げから数ヶ月で、単月黒字及び初期投資回収含めた完全黒字化を達成しました。

・サービス成長と初めての投資家との接触

サービスの成長という意味では立上げ当初の2年間は大変苦労しました。毎月確実に伸びてはいましたが、計画では毎月数百%成長(笑)を目指していましたが、実績は毎月数十%成長とマーケットプレイス事業の特性上、急成長が難しい現実に苦しみ、2年間は緩やかな成長曲線を描くことになりました。

ただ、急成長とはいえかったものの、2010年あたりから、サービスは確実に成長をしており、多くの事業会社やベンチャーキャピタル各社様から面会のオファーを頂くことが多くなってきたのも、この時期でした。

資金調達することで明らかに急成長できる状態であるならばデット(融資)やエクイティ(株式)の手段に関わらず、実施したいと思っており、自己資金経営に拘っていた訳ではありませんが、この時期は以下の理由により、まだ外部資本をいれて急成長を目指すタイミングではないと判断していました。

(1) キャッシュフローが回っており、利益からある程度の再投資はできた
(2) マーケットのタイミングはもう少し先だと思っていた
(3) プランとして確実に事業ビジョンを実現できるという精度でない。
(4) 事業開発のみに集中して、高速なトライ&エラーが必要な時期だった
(5) 投資家のアドバイスより、まずは目の前のやるべきDOを優先したかった

とはいえ、2011年前後くらいから、同時期に起業した経営者らが、大型の資金調達をしていくのを横目でみて、また、仲間の経営者から、ランサーズのモデルと実績なら絶対にエクイティでの資金調達をしたほうがいいのではないか等のアドバイスを受け、今描いている以上の成長スピードの実現を、改めて考え直させられた時期でもありました。

意思決定と3億円の資金調達(2013年)

・サービスの急成長とボトルネックの発生

当初は期待したレベルの立上げとはいかなかったサービスも、2011年後半からは今までとは1つ2つ違った成長カーブを描き始めることになりました。そして、成長により、今まで顕在化しなかった問題が露呈していきます。

例えば、規模が小さかったころには、ビジネスモデル的にもそれほど気にしなくてよかったようなキャッシュフローも、資金調達直前には、メンバーも30名程度にふくらみ、かなり意識しないといけなかったり、成長に伴い発生する多くの「やりたいこと」を実施していくには、圧倒的に人が足りなくなってきたり、「やりたいこと」の中には、ある程度の資金が必要なものが増え始めたり、成長とともに、多くのボトルネックの顕在化と大きな可能性の片鱗が見え始めた時期でした。

・資金調達の意思決定

2008年当時、ランサーズというサービスが立ち上がるかどうかすら分からず「とにかく行動しながら検証しよう」という状態だったものが、この時期には「ある程度の総論検証ができた。あとは各論をどれだけ高速にスピード感をもって実行できるかだ。スピードがあることが良いのではなく、スピードが無いことはリスクだ」という状態でした。これはサービス開始時期と比べて本当に大きな変化でした。

そして、資金調達を決定づける出来事がおこるべくして起りました。サービスの機能変更をおこなった時に、とあるヘビーユーザーの方から連絡を頂きました。「自分はランサーズで生活している。地方で仕事がないなかで、本当に助かっている。ただ、今回の機能変更で、少し自分の仕事が減るのではないかと危惧している。特定ユーザーを優遇できないと思うが、ここで生活している人がいることをわかってほしい。」という衝撃の内容でした。

「時間と場所に囚われない新しい働き方」を作る、そういう思いで本気でサービスに向き合ってきたし、責任感をもって運営してきていたが、改めてその責任の重要さ、インターネットサービスであるものの「仕事」というような重大なテーマを扱っているサービスであることを再認識させられ、今のユーザー、未来のユーザーの方へのプラットフォーマーとしての責任感、またその可能性を考えると、会社自身もよりパブリックな企業になったほうがよいし、責任を全うできる体制にしないといけない、そして、今がそのタイミングなんだと、心から腹落ちし、覚悟を決めた出来事でした。

ちなみに当時、すでにランサーズだけで社員レベルの報酬を得て生活している人が100人程度おり、アルバイトレベルが1000人程度もいらっしゃいました。

・3億円の資金調達と関係者の皆様へ感謝

資金調達の意思決定をしてからは、まずはデット(融資)かエクイティ(株式)もしくはそのハイブリッドで可能性を検討しましたが、結論としてはスピードと事業投資の性質上を考えて、エクイティのみを選択しました。資金調達のプロセスや方法論については、既に多くの著書やブログでの記載があるので割愛させて頂きますが、非常に多くの方のアドバイスとご助言・ご指導を頂きました。

特に、経営者や投資家として、クックパッド穐田さん、IVP小林さん・小野さん、カヤック柳澤さん、nanapiけんすうさん、アラタナ濱渦さん、pixiv片桐さん、pixta古俣さん、リブセンス村上さん、ユーザベース梅田さん、ワンオブゼム武石さん、スマートエデュケーション池谷さん・日下部さんからは、本当に多くのアドバイスを頂きました。この場を借りて、心から感謝申し上げます。

ベンチャー経営者側からすると1度か2度しかない資金調達のため、右も左もわからない中、本当に多くの関係者の方にアドバイスを頂き、調達発表の直前に、関係者の方にお礼とご報告のご連絡をさせて頂きましたが、ご連絡先リストが80人程度となったのをみて、本当に多くの方に支えられていたのだと、本当に感謝しかありませんでした。そして何より、投資検討を頂いた各社様に心からお礼申し上げます。ありがとうございました。

自己資金経営との違い(2013年〜)

・増資のメリットとデメリット

増資をする前は、外部株主が入ると、どのような変化があるのか?食べられるのではないか(笑)?などなど不安な点がなかったというと嘘になりますが、増資後1ヶ月程度が経過しましたが、今のところ、特別に何か大きな変化はありません。当然、株主総会や取締役会など会社法に則った運営であったり、適時の報告責任は生ずることがあると思いますが、株式会社として当然のことかなぁと思っています。それらが、適正レベルであれば、よりスピードを上げることにも繋がるため、それほど恐れなくても大丈夫じゃないかと思っています。

逆に想像していなかった変化としては、投資サイドというのは、対面側に座って会話する相手と思っていましたが、そうではなくて、同じ側に座って、一緒に事業を作って行く仲間なんだということです。当然、VCであれば、株式の売却益を収益とするため、そのロジックは事業会社側と異なる部分もあるのかもしれませんが、ベクトルが合えば、これ以上の仲間はなく、またベクトルがあわない内は、投資を受けない方がよいとも思います。

・今後について

資金調達はゴールではなく、あくまでも事業成長のための手段であり、その資金をいかに効果的に投資していくのかが、経営者としての腕の見せ所だと思っています。まだまだ未熟ではありますが、思いっきりアクセルを噴かせつつ、サービスとユーザーにひたすら向き合って、企業の理念でもある「時間と場所に囚われない新しい働き方」を実現するために、あとはやるだけ、という心境ですが、頑張りまくりたいと思っています!

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カテゴリー:資金調達・IPO